rhAmpSeqターゲットアンプリコンシステムを用いたT細胞受容体の多様性の解析

rhAmpSeqターゲットアンプリコンシステムを用いて、T細胞受容体の多様性を解析
論文概要:免疫系のプロファイリングを行うために、どのようにrhAmpSeqのプロトコールを改良し、T細胞のレパトアシーケンスと組み合わせたかが述べられています。

シンプルなワークフローにも関わらず、免疫機能に重要なCDR3 多様性の評価を、非常に特異的かつ効率的に行われています。

背景

ターゲットを絞り込んで次世代シーケンス(NGS)を行うと、ゲノムの特定領域を迅速かつ安価、詳細に解析することができます。

rhTCRseqは、rhAmp PCRを用いる次世代シーケンス技術であり、T細胞受容体(TCR)をターゲットとすることで免疫系の特徴を解析することができます。


免疫系が抗原に適応して応答するためには、多種多様なTCRが必要になり、獲得免疫のマーカーとなります。TCRが抗原を認識し多様性を決定する部位は、相補性決定領域のCDR3と呼ばれ、アルファ、ベータという2本の鎖からなっています。

これらの鎖は複数のセグメントでできており、アルファ鎖はV、Jというセグメント、ベータ鎖はV、D、Jというセグメントからなっています[1]。

各セグメントの配置により、各TCRは特定の抗原を識別する機能を獲得し、独自の機能を持つようになります。基本的な免疫学の進歩を理解することに加え、CDR3の配列から得られた知見は、自己免疫疾患、臓器移植反応、癌、HIV、感染症の理解に重要な役割を果たしています[2–4]。


rhAmp PCRはRNase Hを用いた手法で、従来のPCRよりもターゲットの特異性を向上させます。

rhAmp PCRにはDNAポリメラーゼ以外にRNase H2酵素が必要で、ブロックプライマー(rhPrimers or rhAmp Primers)を従来のPCRプライマーの代わりに用います。

この論文の著者らは、rhAmp PCRに基づくアンプリコンシーケンス法であるIDT rhAmpSeq システムを用いて、rhTCRseqという手法を開発しました。

実験

Liらは、シングルセル由来のRNAと、バルクRNAの両方でrhTCRSeqの実証を行っています。

ライブラリ作製の前に、まず384ウェルプレートによりシングルセルをソートします。バルクRNAの場合、1反応あたり1-50 ngのtotal RNAを用います。

続いて全長cDNAライブラリを調製し、TCRの増幅はunique molecular identifier(UMI:分子バーコード)を含むrhAmpプライマーを用いて行われています。

UMIは検体内の特定の分子を識別するタグの働きをします。またrhAmpテクノロジーは、rhAmpプライマー独自のデザインと、RNase H2酵素がもつ特性を生かした技術です。

従来のPCRやqPCRで用いられる修飾を行っていないDNAのみのプライマーとは異なり、rhAmpプライマーは3’末端に非特異な増幅を防ぐブロッキング部位と、RNase H2が認識しブロッキング部位を除くためのRNA塩基を持っています。

このメカニズムにより特異性が向上したことで、目的のターゲット配列が優先的にPCR増幅されます。増幅後、イルミナMiSeqでシーケンスを行う前に、磁気ビーズによるクリーンアップを数回行なってTCR配列を選択します。

結果

著者らの報告によると、シングルセルRNAから調製したcDNAライブラリの濃度は0.5~6.1 ng/µLで、5,760-17,619リードを取得することが出来ました。

バルクRNAを用いて得られた結果は、RNAの量、T細胞中のRNAの割合、検体の種類など、いくつかの条件によって異なっていました。

例えば、新鮮な凍結組織を用いると、FFPE検体よりも信頼性の高い結果を得ることが出来ています。


rhTCRseqテクノロジーによって、全長CDR3配列の作製効率を向上させ、データの収量を増やすことができました。この方法は、シンプルなワークフローでありながら、極めて特異的かつ効率的に免疫系の特徴を解析することが可能です。

References

原文:Characterization of T cell receptor diversity using a variant of the rhAmpSeq targeted amplicon sequencing system
著者:Jessica DeWitt, PhD, Scientific Writer, IDT.
翻訳・監修:浜本 雄次

製品フォーカス

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  • ・ xGen® Human mtDNA Research Panel - ヒトミトコンドリアDNAを網羅的に解析可能なプローブセット
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