NGSにおけるマルチプレックスとキャプチャー

執筆 IDT株式会社 浜本雄次

次世代シーケンシング(NGS)プラットフォームのスペックは驚異的な速度で向上しており、各ライブラリをプールしてシーケンスを行う、マルチプレックスとして知られる手法が一般的になりました。

マルチプレックス法では、各ライブラリにインデックス配列またはバーコード配列と呼ばれる既知の配列を付加し、各ライブラリをプールします。
プールされた各ライブラリは、シーケンス後のデータからインデックス配列を指標に割り当てることで、一度のシーケンスで多サンプルを解析できるようになります。その結果、各サンプルあたりのシーケンスコストを大幅に下げることが可能です。

図1.シーケンスの際のマルチプレックス
またNGSの実験コストを下げる方法として、目的の配列のみを濃縮してシーケンスを行う、ターゲットシーケンスの手法があります。
ターゲットシーケンスとして代表的なエクソームシーケンスでは、ゲノム中の3%のエクソンを濃縮することで、既知の疾患関連変異の約85%が解析できる効率の良い手法です。

図2. ターゲットキャプチャーによる目的配列のみの取得
しかしながら、プローブキャプチャーによるターゲットシーケンスでは、​濃縮のための追加試薬コストが懸念と考えている方もいらっしゃいます。​
実際はプローブキャプチャーによる濃縮の際も、各ライブラリにインデックス配列が付加されているため、プールして濃縮することが可能です。
一度に多サンプルを濃縮できますので、処理可能なサンプル数を増やし、​各サンプルあたりの試薬コストを大幅に下げることが可能です。

図3. ターゲットシーケンスの際のマルチプレックス

例)12サンプルをマルチプレックスして、Exome panel(16 rxn*、480,000円)でキャプチャーした場合​

*rxn = キャプチャー回数​
処理可能サンプル数:12サンプル × 16 rxn = 192サンプル​
1サンプルあたりの価格:480,000円 ÷ 192サンプル = 2,500円​

またプローブによるマルチプレックスでは、各ライブラリあたりのデータへの影響も懸念されます。​
IDT社では、マルチプレックスでプローブキャプチャーを行った際のデータへの影響を検討致しました。

図4. ライブラリ量とduplicate %の関係
各ライブラリ500 ngでプールした場合と、各ライブラリの総量が500 ngでプールした場合のdupicate %を比較しました。
プローブはxGen® Acute Myeloid Leukemia Cancer Panelを使用し、NextSeq® System (Illumina)でシーケンス後、Picard’s HsMetricsを用いて解析を行いました。

図5. 500 ng/ライブラリをマルチプレックスした場合、均一性の高いデータを取得可能
図1と同様の条件で実験を行い、各ライブラリ500 ngでプールした場合のターゲット配列のカバレッジ[bases covered at >X(%)] をPicard’s HsMetricsを用いて解析しました。

図4、5より、各ライブラリを500 ng 用いることで、データの質に影響がないことが分かりました。
高いカバレッジ均一性を保ったまま、マルチプレックスを用いたシーケンスを行うことが出来るため、​試薬コストを抑えながら十分なシーケンスデータを取得可能です。

マルチプレックスを行ってもデータの質を維持できるのは、弊社独自の個別合成方法により、​高品質なプローブ合成が出来ているためです。
» xGen®製品の特徴について詳しくはこちらをご覧下さい。​

またFFPEなどの希少サンプルで、十分なライブラリ量を調製することが難しい場合は、duplicate % 等へのシーケンスデータへの影響を考慮して実験計画を準備することが重要です。

References



製品フォーカス

xGen® 製品の特徴
xGen® 製品は、高品質なプローブを1本ずつ合成し、全てのプローブに品質管理及び納品量の標準化を行っています。SNPs、インデル、CNV、LOH、および転移の高感度の検出に有用で、既存のパネルを拡張したり、完全にカスタマイズされたパネルを作成したりする柔軟性も持ち合わせています。
GC含量の多い領域が取得しにくいのはプローブの合成が難しいためですが、IDTでは、プローブ1本ずつに品質管理を行っているため、納品したプローブプール内に各プローブが確実に必要量含まれています。そのため、GCリッチな領域を含むターゲット領域全体を均一に取得可能です。

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診断用のxGen Lockdownプローブも利用できます。 詳細は、japan-cc@idtdna.comにお問い合わせください。


xGen® Lockdown® Probes
新規プローブセットの作製や、お手持ちのプローブセットの拡張・補填など実験目的に合わせたプローブセットをご購入いただけます。各遺伝子から目的の遺伝子をお選びいただくプレデザイン品と、ご希望のプローブ配列を合成するカスタム品をご用意しております。

» xGen® Lockdown® Probesの詳細についてはこちらをご覧ください。


xGen® Lockdown® Panels
    エクソームおよび各疾患用に最適化されたプローブセットです。
  • ・ xGen® Exome Research Panel - エクソームシーケンス用プローブセット
  • ・ xGen® Acute Myeloid Leukemia Cancer Panel - AML(急性骨髄性白血病)用プローブセット
  • ・ xGen® Pan-Cancer Panel - 12種のがんに共通して変異が見られる127遺伝子のプローブセット
  • ・ xGen® Inherited Diseases Panel - HGMD®(Human Gene Mutation Database)に基づいた遺伝性疾患に関わる領域及びSNPsのプローブセット
  • ・ xGen® Human ID Research Panel - ヒトDNAの識別用に設計されたプローブセット
  • ・ xGen® Human mtDNA Research Panel - ヒトミトコンドリアDNAを網羅的に解析可能なプローブセット
  • ・ xGen® CNV Backbone Panel—Tech Access - ヒトゲノム全体のCNV(コピー数多型)を解析するプローブセット

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xGen® Universal Blocking Oligos
 アダプター配列同士の結合を防ぐブロッキングオリゴです。xGen® Universal Blockers – TS MixはIllumina社のインデックスアダプター用に設計されており、シングルインデックスとデュアルインデックス用のどちらのタイプにもready-to-useで使用可能です。3’末端のC3スペーサー付加など非特異な配列の結合・増幅を防ぐ修飾がされており、オンターゲット率を大幅に向上させます。

» xGen® Universal Blockers – TS Mixの詳細については、こちらをご覧ください。


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xGen® Dual Index UMI Adaptersによるインデックスホッピングの解消と低頻度変異の検出
インデックスホッピングや低頻度変異の検出に有用なDual Index Apadtersについての説明と、このアダプターを用いて得られた具体的なで実験データを開示しています。

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