プローブ法によるターゲットエンリッチメントは、HIVとHTLVプロウイルスのChIP解析を改善する

本文は、下記の論文の内容から一部抜粋・翻訳したものです。
Miyazato P, Katsuya H, et al. (2016) Application of targeted enrichment to next-generation sequencing of retroviruses integrated into the host human genome. Sci Rep, 6:28324.


Introduction
 ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)およびヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)のようなレトロウイルスは、ゲノムのDNAコピーを宿主細胞のゲノムDNAに直接組み込み、プロウイルスを形成する。

プロウイルスは、組み込みにより宿主細胞の分子機構を利用して増殖することが可能になるが、同じ染色体上の他の遺伝子を調節するエピジェネティック修飾の影響を受けることにもなる。これらのプロウイルスの転写の調節を理解することは、生命を脅かす病気を引き起こすレトロウイルスの基礎研究および治療において重要である。

 クロマチン免疫沈降を利用した次世代シーケンス(ChIP-seq)は、プロウイルスの転写調節を明らかにするための優れた手法である。しかしながら、約30億 bpのヒトゲノムの内に、組み込まれたプロウイルスは約9kbにも満たない。このような少量のDNAについて詳細な解析を行うには、ChIPによる濃縮に加え、標的配列のさらなる濃縮が必要である。この二次濃縮は、ChIP-seqデータにバイアスがかからず、多様なプロウイルス株に対応できるカスタムデザインが可能であり、配列中の変異に対しても解析可能なものでなくてはならない。


Materials & Methods
 IDT xGen® Lockdown®プローブを使用して、国内で最も多いHIV-1およびHTLV-1のサブタイプに対してビオチン化プローブのセットを作成した。 各120 bpのプローブを用いて、60 bpずつが重なるようなタイリングで 設計し、HIV-1のプローブセットは161個のプローブ、HTLV-1のプローブセットは148個のプローブで構成されていた。

 プロウイルス配列を濃縮するために、まず抗CTCF抗体、抗H3K4me抗体、抗H3K9ac抗体、抗H3K36me抗体を用いて、HIV-1およびHTLV-1サンプルのクロマチン免疫沈降(ChIP)を行った。その後、Illumina® MiSeq®およびNextSeq®でシーケンスを行うためのDNAライブラリーを調製した。

 調製したNGSライブラリーサンプルを、Cot-1 DNA(Thermo Fisher)およびxGen Blocking Oligos(IDT)を用いて、非特異なハイブリダイゼーションが起こらないようマスクし、HIV-1またはHTLV-1プローブセットを用いて濃縮した。プローブにより濃縮を行ったサンプルの結果を、ChiP濃縮のみを行ったサンプルの結果と比較した。
 


Results
 プローブによる濃縮を行っていないサンプルについて解析を行ったところ、99.99%以上は宿主ゲノムのものであり、プロウイルス分析には有用ではなかった。しかしながら、プローブによる濃縮を行ったサンプルでは、数百〜数千倍のプロウイルス由来の配列を取得できていた。また、サンプル間のデータは相関しており、 プローブによる濃縮を行ってもバイアスは見られなかった。

 さらに、プロウイルスの研究にとって重要な塩基のミスマッチに関しても、xGen® Lockdown® Probesは対応可能であることが明らかとなった。具体的には、HTLV-1プローブセット中のプローブ配列では7 bpまで、HIV-1プローブセットでは8 bpまでのミスマッチに対して、キャプチャー効率に有意に影響しないことが確認された。

 このキャプチャープローブによる濃縮方法は、宿主ゲノム中のプロウイルス配列の解析に非常に有効であり、さらに容易にカスタム設計が可能なことから、他のプロウイルス種にも対応可能であると考えられる。また、キャプチャー反応を行うために十分な量の各プローブパネルを手頃な価格で発注できるため、他のアプリケーションにも有用であると考えられる。


References


製品フォーカス

xGen® 製品の特徴
xGen® 製品は、高品質なプローブを1本ずつ合成し、全てのプローブに品質管理及び納品量の標準化を行っています。SNPs、インデル、CNV、LOH、および転移の高感度の検出に有用で、既存のパネルを拡張したり、完全にカスタマイズされたパネルを作成したりする柔軟性も持ち合わせています。
GC含量の多い領域が取得しにくいのはプローブの合成が難しいためですが、IDTでは、プローブ1本ずつに品質管理を行っているため、納品したプローブプール内に各プローブが確実に必要量含まれています。そのため、GCリッチな領域を含むターゲット領域全体を均一に取得可能です。

» xGen®製品の特徴について詳しくはこちらをご覧下さい。
診断用のxGen Lockdownプローブも利用できます。 詳細は、japan-cc@idtdna.comにお問い合わせください。


xGen® Lockdown® Probe Pools
新規プローブセットの作製や、お手持ちのプローブセットの拡張・補填など実験目的に合わせたプローブセットをご購入いただけます。各遺伝子から目的の遺伝子をお選びいただくプレデザイン品と、ご希望のプローブ配列を合成するカスタム品をご用意しております。

» xGen® Lockdown® Probesの詳細についてはこちらをご覧ください。


xGen® Lockdown® Panels
    エクソームおよび各疾患用に最適化されたプローブセットです。
  • ・ xGen® Exome Research Panel - エクソームシーケンス用プローブセット
  • ・ xGen® Acute Myeloid Leukemia Cancer Panel - AML(急性骨髄性白血病)用プローブセット
  • ・ xGen® Pan-Cancer Panel - 12種のがんに共通して変異が見られる127遺伝子のプローブセット
  • ・ xGen® Inherited Diseases Panel - HGMD®(Human Gene Mutation Database)に基づいた遺伝性疾患に関わる領域及びSNPsのプローブセット
  • ・ xGen® Human ID Research Panel - ヒトDNAの識別用に設計されたプローブセット
  • ・ xGen® Human mtDNA Research Panel - ヒトミトコンドリアDNAを網羅的に解析可能なプローブセット
  • ・ xGen® CNV Backbone Panel—Tech Access - ヒトゲノム全体のCNV(コピー数多型)を解析するプローブセッ

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xGen® Universal Blocking Oligos
 アダプター配列同士の結合を防ぐブロッキングオリゴです。xGen® Universal Blockers – TS MixはIllumina社のインデックスアダプター用に設計されており、シングルインデックスとデュアルインデックス用のどちらのタイプにもready-to-useで使用可能です。3’末端のC3スペーサー付加など非特異な配列の結合・増幅を防ぐ修飾がされており、オンターゲット率を大幅に向上させます。

» xGen® Universal Blockers – TS Mixの詳細については、こちらをご覧ください。


Additional reading

xGen® Dual Index UMI Adaptersによるインデックスホッピングの解消と低頻度変異の検出
インデックスホッピングや低頻度変異の検出に有用なDual Index Apadtersについての説明と、このアダプターを用いて得られた具体的なで実験データを開示しています。

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プローブキャプチャー法でマルチプレックスを行った際に、一度にマルチプレックスするサンプル数によるデータの品質がどのように影響するか、を実際の実験データを用いて紹介しています。
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