xGen® Lockdown® Probesを用いたFFPEサンプルのDNAエンリッチメント


確実なシーケンスデータ取得のための推奨事項
ハイライト
• xGen® Lockdown® Probesを用いた、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織ブロックからのDNA抽出、DNAの質の評価、ターゲットエンリッチメント用ライブラリーの調製に関する推奨事項

• アーカイブ組織サンプルのカバレッジ・体細胞変異コール感度向上のガイドライン


Introduction
癌ゲノムは通常、FFPEサンプルを用いて研究が行われています。FFPEサンプル中には多様のクローン集団が存在し、各クローンで特有のドライバー変異をもつため、すべてのクローンで解析が行われないと正確な評価が出来ません。

さらに、このようなサンプルの腫瘍DNA含有率は低く、特性を解析するには感度の高い変異検出能力が必要です。

そのため、腫瘍の特徴を正確に評価するには、ライブラリーが十分多様であること、サンプルをバランスよく含んでいること、ユニークなシーケンシングのカバレッジが高いことが要求されます(図1)。


[アスタリスクは分解したDNAを示しています]

図1. DNAの質がライブラリーの複雑性に及ぼす影響
シーケンシングライブラリーの多様性(ライブラリーの複雑性ともいいます)は、初期サンプルの量と質、およびライブラリー変換の効率によって変わります。感度の高い体細胞変異検出を得るには、ライブラリーの複雑性が十分であることが重要です。複雑性が低いライブラリーにシーケンシングを追加しても、PCRの重複リードを増やすだけです。

(A) 十分量の質の高いDNAから始めると、実際のサンプルに含まれている複雑性の高いライブラリーを構築できます。
(B) 最初のサンプル量が十分でないと、偏りのある、複雑性の低いライブラリーになります。
(C) 質の低いサンプルを用いると、複雑性の低いライブラリーになります。これは、ライブラリー調製中に分解したDNAが変換されないからです。
(D) 場合によっては、FFPEサンプルに由来する質の低いDNAの投入量を増やすことで、ライブラリーの複雑性を高めることができます。

xGen Lockdown Probesを用いてサンプルのエンリッチメントを行うと、最低限のシーケンシングリードで、ターゲット領域のカバレッジを深くすることができます。

ただし、FFPE DNAの質と量は多様であるため、サンプルの種類を適切に評価、処理してライブラリーの複雑性を最大化し、ターゲットのカバレッジを高めることが大切です。

このアプリケーションノートでは、市販のDNA品質評価キットを用いてFFPE DNAから最終ライブラリーの複雑性を推定し最大化する方法について説明します。


Results
さまざまな腫瘍組織FFPEブロック(Asterand BioSciences社)から、DNAを抽出しました。

市販の4種類の抽出キットで行ったDNAの質・収量の測定結果は一貫していました(図2)。

このデータは、DNAの質と収量がDNA抽出キットとは無関係であることを示しており、質と収量はFFPEブロックの最初の固定や状態の影響を受けることがわかります。

次に、DNAの質を評価する各種の方法について、どのようなサンプルの状態から、有用で信頼できるシーケンスデータが得られるか検討しました(図3、表1)。

図4は、平均カバレッジの最大値を、サンプル品質のスコアまたはDNA分解度(DNA Integrity Number、DIN)を用いて測定した場合の、比較結果を示しています。

最後に、コントロールgDNAと質の高いFFPEおよび質の低いFFPEのインプット量を滴定し(図5)、インプット量と最終産物の複雑性の関係を明らかにしました。これらのデータは、最初のサンプル量を増やすことによって、一部のFFPEライブラリーの「レスキュー」ができることを示しています。


■ FFPE抽出キットの評価


図2.  FFPEから抽出したgDNAサンプルの収量と質は最初の固定によって異なる

4種類の抽出キットを用いてアーカイブFFPEブロック(Asterand Bioscience社)からDNAを抽出しました。
使用したキットは、Mag-Bind® FFPE DNA(Omega Bio-Tek社)、E.Z.N.A.® FFPE DNA Kit(Omega Bio-Tek社)、ReliaPrep™ FFPE gDNA MiniPrepシステム(Promega社)、QIAamp® DNA FFPE Tissueキット(QIAGEN社)です。
各ブロックから10μm切片を用いて、メーカーの使用説明書どおりにDNAを抽出しました。
総収量はQubit® dsDNA BR Assayキット(Thermo Fisher Scientific社)を用いて評価し、DNA分解度(DIN)は、Agilent TapeStation® genomic DNA analysis tape screenを用いて決定しました。


■ 質の評価とライブラリーの複雑性に対する影響


図3. 市販のキットを用いたFFPE DNAの品質の評価

品質のスコアをKAPA hgDNA Quantification and QC Kit(Kapa Biosystems社)を用いて決定したところ、抽出後FFPEサンプル(ブロック1~5)、ゲノムDNA(gDNA)対照サンプル(Coriell NA12878)のDNA分解度(DIN)との相関は良好でした。



図4. 品質評価の測定値と平均カバレッジの最大値との関係

平均カバレッジの最大値を品質のスコア(左)やDNA分解度(DIN、右)の関数として求めると、同一の相関がみられます。
各ブロックについて、KAPA Hyper Prep Kit(Kapa Biosystems社)を用いて10 ngのDNAからライブラリーを作製し、xGen® AML Cancer Panelを用いてエンリッチメントを行った後、シーケンシングデータを取得しました。
平均カバレッジの最大値、つまりライブラリーで得られるユニークなカバレッジの最大値を計算することによって、ライブラリーの複雑性を決定しました。
なお、NEBNext® Ultra TM II DNA Library Prepキット(New England Biolabs社、データは示さず)を用いてライブラリーを構築した場合でも同等の性能が認められました。


■ DNAのインプット量がライブラリーの複雑性に及ぼす影響

サンプル名 Q129/41 DIN
質の低いFFPE < 0.2 < 2.5
質の高いFFPE < 0.4 > 3.5

表1.FFPE組織から単離されたDNAの品質の評価
品質のスコア(Qスコア)を、129bp/41bpアンプリコン比として表しました。DNAの分解が進むとテンプレートの長いサンプルでPCR増幅できないため、Qスコアが低くなり、サンプルの品質が悪いと判断できます。理想的なQスコアは1です。これは、両アンプリコンの増幅が同等であり、DNAが分解されていないことを示しています。

サンプルの種類 入力量 (ng)
1 5 10 25 50 100
gDNA 14 12 11 8 7 6
FFPE 16 14 12 9 8 7

表2. サンプルの種類およびインプット量ごとの、プレキャプチャー時PCR増幅サイクル


図5. DNAインプット量によるカバレッジの変動

KAPA Hyper Prep Kit(Kapa Biosystems社)を用い、表2のとおりPCR増幅を行って、質の低いFFPE・質の高いFFPE由来のDNA(表1で定義)と質の高いgDNAからライブラリーを調製しました。
xGen® AML Cancer Panelを用いて、すべてのライブラリーでエンリッチメントを行い、NextSeq® システム(Illumina社)でシーケンスを行いました。
(A) サンプルの種類別、インプット量別に求めた平均カバレッジの最大値は、最終ライブラリーの複雑性がインプット量とサンプルの品質の両方によって大きく変わることを示しています(点線は線形回帰直線)。
(B) 500Xの平均カバレッジの達成に必要な最小インプット量を、平均カバレッジの最大値の線形回帰分析を用いて推定しました。
(C) ライブラリー調製に50 ngを使用した場合に期待される平均カバレッジの最大値は、インプット量が一定であれば、サンプルの品質により異なることを示しています。


結論および最終的な推奨事項
今回、FFPEサンプルから抽出DNAの品質と量がシーケンシングライブラリーの複雑性にどのように影響するかを検討しました。

検討した理由は、抽出DNAの品質と量は保存されたサンプルの取り扱い時に最も懸念される要因であるためです。今回のデータで次のことがわかりました。

  1. FFPEサンプルから抽出されたDNAの品質と収量は、抽出キットとは無関係です。むしろ、保存中・固定中の取り扱い要因が関係している可能性が大きいです。

  2. ライブラリー調製前のDNAの品質の評価では、品質のスコア(Qスコア、129bp/41bpアンプリコン比)とDNA分解度(DIN)は相関するため、QスコアやDINを用いて最終ライブラリーの複雑性を予測することができます。
    今回、KAPA hgDNA Quantification and QC KitによるQスコアの測定値が0.4を超えるDNA、あるいはAgilent 4200 TapeStationシステムによるDNA分解度(DIN)の測定値が3.5を超えているDNAは、信頼性の高いシーケンスデータを取得するのに必要な、複雑性の高いライブラリーの調製に十分な品質をもっているという知見を得ました。

  3. FFPEサンプルから抽出したDNAを用いて、十分な品質のエンリッチメントしたライブラリーを調製することができます。
    しかしながら、組織サンプルの取り扱い中・保存中に変動が生じるため、目的のカバレッジに必要な最小限のインプット量を求めるには、FFPE DNAの品質の管理(QC)を行うことが重要です。
    シーケンシング結果はDNAの品質とインプット量によって異なってきます。


References


製品フォーカス

xGen® 製品の特徴
xGen® 製品は、高品質なプローブを1本ずつ合成し、全てのプローブに品質管理及び納品量の標準化を行っています。SNPs、インデル、CNV、LOH、および転移の高感度の検出に有用で、既存のパネルを拡張したり、完全にカスタマイズされたパネルを作成する柔軟性も持ち合わせています。

GC含量の多い領域が取得しにくいのはプローブの合成が難しいためですが、IDTでは、プローブ1本ずつ全てにおいて品質管理を行っているため、納品したプローブプール内に各プローブが確実に必要量含まれています。そのため、GCリッチな領域を含むターゲット領域全体を均一に取得可能です。

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診断用のxGen Lockdownプローブも利用できます。 詳細は、japan-cc@idtdna.comにお問い合わせください。


xGen® Lockdown® Probes
新規プローブセットの作製や、お手持ちのプローブセットの拡張・補填など実験目的に合わせたプローブセットをご購入いただけます。各遺伝子から目的の遺伝子をお選びいただくプレデザイン品と、ご希望のプローブ配列を合成するカスタム品をご用意しております。

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xGen® Lockdown® Panels
    エクソームおよび各疾患用に最適化されたプローブセットです。
  • ・ xGen® Exome Research Panel - エクソームシーケンス用プローブセット
  • ・ xGen® Acute Myeloid Leukemia Cancer Panel - AML(急性骨髄性白血病)用プローブセット
  • ・ xGen® Pan-Cancer Panel - 12種のがんに共通して変異が見られる127遺伝子のプローブセット
  • ・ xGen® Inherited Diseases Panel - HGMD®(Human Gene Mutation Database)に基づいた遺伝性疾患に関わる領域及びSNPsのプローブセット
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  • ・ xGen® Human mtDNA Research Panel - ヒトミトコンドリアDNAを網羅的に解析可能なプローブセット
  • ・ xGen® CNV Backbone Panel—Tech Access - ヒトゲノム全体のCNV(コピー数多型)を解析するプローブセット

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xGen® Universal Blocking Oligos
 アダプター配列同士の結合を防ぐブロッキングオリゴです。xGen® Universal Blockers – TS MixはIllumina社のインデックスアダプター用に設計されており、シングルインデックスとデュアルインデックス用のどちらのタイプにもready-to-useで使用可能です。3’末端のC3スペーサー付加など非特異な配列の結合・増幅を防ぐ修飾がされており、オンターゲット率を大幅に向上させます。

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