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注文したDNAオリゴが届いたら、まず何をするべきか


ご発注されたIDTオリゴヌクレオチドが手元に届いたら、多くの研究者が「さて、このオリゴをどうすべきなのだろうか」と考えます。

この時、オリゴヌクレオチドの再懸濁、希釈、保存についてどうすべきか、を決める必要があります。 再懸濁、希釈、保存については、各オリゴに予定されている用途によって変わってきます。

以下に、実験に用いるためのオリゴの調製に関係する推奨事項と適切な保存のガイドラインについて説明します。


再懸濁


遠心分離および再懸濁
IDTで合成されたほとんどのオリゴヌクレオチドは、乾燥状態で納品され、しばしばチューブの底に白色のフレーク状物質が溜まっているように見えます。

乾燥状態のDNAはきわめて安定であり、通常は水溶液への再懸濁は容易です。

オリゴ受領時に研究者が取るべき最初のステップは、開ける前にチューブを短時間遠心処理を行うことです。 それにより、納品過程でチューブの中で位置がずれてしまった可能性のある乾燥DNAが確実にチューブの底に落ちます。


次に、オリゴをTE緩衝液(IDTE:10 mM Tris、0.1 mM EDTA、pH 8.0)に再懸濁する必要があります。

Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)は緩衝液として作用し、溶液のpHを一定に保つのに役立ちます。
EDTA(エチレンジアミン四酢酸)は、ヌクレアーゼによるDNAの分解を防ぎます。

高濃度になるとEDTAはMg2+のような金属イオンをキレートすることによって、PCRなどの酵素反応を阻害することができますが、IDTE緩衝液中に存在する低濃度のEDTAはその後の酵素反応を妨害しません。

TE緩衝液は一般的な研究試薬で調製することができます。また、IDT製品選択リストからもご購入いただけます。


濃度および希釈
「オリゴの再懸濁濃度はどうすればよいのか」とよく研究者の方々からお問い合わせをいただきます。

これは各研究者の判断によって変わってきます。また、将来オリゴをご利用になる実験用途によっても変わってきます。 オリゴヌクレオチドは広範囲の濃度において安定的に保存できます。


しかしながら、安定性を最大にするには1 μM以上10 mM以下の濃度をお勧めします。

IDTはSciTools® suiteの中に再懸濁用希釈率計算ツールResuspension Calculatorをご用意しております。このツールでは、目的の濃度にするために添加すべき緩衝液の容量を簡単に計算できます。

再懸濁液の計算は、オリゴチューブ本体と発注品に同梱されているIDTオリゴ製品仕様シート(スペックシート)の両方に記載されている収量情報を用いて行うことができます。

利便性と有用性を高めるため、収量情報は光学密度(OD)単位、質量(mg)、合成スケール(nmol)で表記してあります。(スペックシート例


当社は通常、原液濃度が100 μMになるようにオリゴを再懸濁することをお勧めしています。この濃度は添加緩衝液量が計算しやすく、また、その後のさまざまな希釈目的に対する汎用性がたいへん高いためです。

100 μM原液の調製に必要なTE緩衝液の容量は、各オリゴのリストにあるナノモル(nmol)数を10倍することによって容易に算出できます。 計算後、乾燥DNAを同一のマイクロリットル(μL)数のTE緩衝液に再懸濁します。

例えば、オリゴの仕様シートにオリゴの納品量が20.3 nmolと記載されている場合は、203 μLのTE緩衝液を加えて100 μMの原液を調製します。この原液は、必要に応じて希釈することにより、適切な標準溶液にすることができます。

難溶性
ほとんどのオリゴヌクレオチドは10 μM未満の濃度で容易に溶液にすることができますが、一部に、再懸濁が難しいオリゴがあります(特定の蛍光色素修飾オリゴ、コレステロールなどの疎水性修飾オリゴ)。

難溶性のオリゴで、再懸濁後に沈殿物の残存が観察されるオリゴについては、55℃で1〜5分間加熱し、十分にボルテックス処理した後、短時間遠心処理を行うことをお勧めします。

チューブ内に残っていた残留合成反応の副生成物が再懸濁後に肉眼でわかることがあります。こうした副生成物としては、トリチル(Trityl:フレーク状の外観)およびCPG(controlled porous glass:調節多孔ガラス。チューブの底にペレットを形成)があります。

このような物質はどれもオリゴヌクレオチドの性能に悪影響を及ぼさないはずですが、再懸濁後のオリゴをSephadex G50カラムに通すことによって両物質は容易に除去できます。


保存


標準的なDNAオリゴヌクレオチドの最適保存条件
IDTでは、様々な保存条件でオリゴヌクレオチドの安定性試験を行っています。

試験結果より、標準的なDNAオリゴヌクレオチドを保存すべき最も安定した温度は-20℃であることがわかっています。

-20℃で保存したオリゴは、乾燥状態でもTE緩衝液やヌクレアーゼを含有しない水に再懸濁した場合でも、少なくとも24ヶ月間安定です。

乾燥された標準的なDNAオリゴ、TE緩衝液や水の中で5℃で保存された標準的なDNAオリゴは、長期間安定であることがわかっています。


しかしながら、さらに長期間オリゴを保存する場合は、凍結すると安定性が向上します。

37℃で保存された標準的なDNAオリゴは、水中では少なくとも6週間、乾燥状態またはTE中では25週間安定です。これより高温での保存はお勧めしません。

しかしながら、オリゴが実験台に一晩放置される、週末に冷凍庫が故障する、などの事故が起こることはありえます。
オリゴの安定性に影響が及ぶことがあってはならないということを理解しておくことが大切です。

どんな保存温度でも、長期保存には水溶液や乾燥状態ではなくTE緩衝液にするのが最適です。

蛍光色素修飾オリゴの保存
通常、蛍光色素でラベルしたオリゴは、-20℃でTE中で保存すると、24ヶ月後にはシグナルが約20%低下します。

蛍光色素修飾オリゴ、特にCy色素修飾オリゴ・FAM色素修飾オリゴの場合は、褐色チューブに保存するかアルミホイルで覆うことで、長時間の光暴露によっておこりうる経時的な蛍光退色を防ぐ事ができます。


RNAオリゴヌクレオチドに関して

RNA固有の化学構造はDNAに比べて安定性に劣ります。

これは、RNAヌクレオチドのペントース環の2'位に追加のヒドロキシル基が結合しているために、RNAがアルカリ加水分解されやすくなっているからです。

さらに、RNaseは分布が広範囲にわたるため、RNAのほうがDNAよりも分解を受けやすくなっています。

したがって、RNAオリゴヌクレオチドは、安定性を向上させるために-80℃ [1] でエタノール沈殿物として保存する必要があります。

短期保存の場合は、IDTEのようなキレート剤を含む中性から弱酸性のヌクレアーゼ非含有緩衝液にRNAオリゴを再懸濁することをお勧めします。しかしながら、RNAオリゴを保存する場合は必ず、RNaseとアルカリ加水分解を避けることが大切です。

References

原文:My oligos have arrived: Now what?
著者:Elisabeth Wagner, PhD, Manager of Scientific Applications Support, IDT.
翻訳:安井 孝彰

1. Farrell RE (2009) Chapter 2: RNA Isolation Strategies. In: RNA Methodologies (4th Edition). Boston: Academic Press. p 45–80.


製品フォーカス

プライマー(Custom DNA Oligos)
60塩基まで最小スケールで合成出来るDNAオリゴヌクレオチド合成サービスです。
IDTは品質に強いこだわりがあるため、すべての合成DNAに対して品質確認を行っております。

Ultramer
45 ~ 200 塩基まで合成出来る一本鎖DNAです。
通常の1本鎖DNA合成よりもさらに純度が高いため、品質が要求されるアプリケーションにオススメです。
また、比較的長い1本鎖DNAを合成できるため、ゲノム編集にもよく使われています。

純度の高さはDNA合成時のカップリング効率に依存します。詳細は、リンク先にてご覧下さい。

RNA合成(Custom RNA Oligos)
IDTのRNA合成サービスです。IDTで合成したRNAでないと、結果がでなかったと感想を頂いたこともあります。
RNAに品質を求める場合にぜひお試しください。

Additional reading

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