オリゴヌクレオチドを保存する時に知っておきたい7つのコツ
考慮すべき重要事項と、裏付けとなる実験データをご覧ください。
これらは、現在も実施中の長期安定性縦断研究から作成したものです。
2017年6月20日
非修飾DNAオリゴの場合:
この2つの条件のうち、より重要な条件は温度です。-20°Cで保存した場合、乾燥状態で保存しても、TE緩衝液やヌクレアーゼフリー水に再懸濁して保存しても、オリゴは2年間(24か月間)安定でした(図1A)。
同様に、4℃での安定性は、保存状態による有意差はありません。この温度では、上述した3種類の状態(乾燥状態、TE緩衝液、ヌクレアーゼフリー水)で保存されたオリゴは1年以上安定です(>60週間、図1B)。
これらの実験結果から、弊社の推奨事項は次のとおりです。長期保存する場合はオリゴを冷蔵庫(-20°Cまたは4°C)で保管してください。そうすることで保存状態や溶液が何であるかに関わらず、長期間安定に保存できます。なお、オリゴはできるだけ紫外線に曝さないようにしてください。
2. 保存温度が上がると、保存状態が重要となる
保存状態によるオリゴの安定性の差は、保存温度が上がるにつれて大きくなっていきます。弊社は「最悪の場合のシナリオ」の出荷条件(37°C / 98.6°F)で試験をおこない、保存状態における安定性の差を明らかにしました(図1C)。
37°Cにおけるオリゴの安定性は、ヌクレアーゼフリー水で保存した場合が最も低く(約6週間)、次いで乾燥状態で保存したオリゴ(約42週間)、最も安定性が高いのはTE緩衝液中で保存したオリゴ(約150週間)でした。
図1. 3種類の保存状態で-20°C、4°C、37°Cで保存したオリゴの安定性
24ヶ月間にわたり、qPCRアッセイの∆Cqを評価することにより、TE緩衝液(IDTE、pH8.0)、ヌクレアーゼフリー水、乾燥状態のいずれかで保存したオリゴの安定性を測定しました。(A)-20℃で保存したオリゴは、保存状態に関わらず、24か月間不変でした(∆Cq >1.5)。
(B)4°Cで保存したオリゴは、60週間経っても変化はみられず、保存媒体間でのばらつきはわずかでした。(C)37°Cで保存したオリゴの安定性には保存媒体間で非常に大きな差が認められました。安定性はTE緩衝液に再懸濁した場合が最も高く(~150週間)、次いで乾燥状態での保存(~42週間)、最後にヌクレアーゼフリー水での保存でした(~6週間)。
3. オリゴの最も安定に保存する方法は、TE緩衝液への再懸濁
弊社はDNAオリゴ合成を開始した1987年以降、さまざまな温度と状態における保存の安定性について研究しています。これまでの研究で、緩衝液溶液に保存したオリゴが最も長期間安定であることがわかっています。
そのため、ヌクレアーゼフリー水ではなく、TE緩衝液、IDTE(1X TE Solution。10 mM Tris、0.1 mM EDTA)にDNAオリゴを再懸濁して保存することをお勧めします。トリス[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]は一定のpHを保つのに役立ち、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)はキレート剤として作用し、DNAのヌクレアーゼによる分解を防止します。なお、IDTEはさまざまな量で提供しており、pH 7.5かpH 8.0も選べます。
4. ”Dry”オリゴは完全には乾燥していない
微量ではあっても、乾燥オリゴには必ず若干の水分が存在します。そして、時間が経つにつれてこの水分がDNAを損なう可能性があります。そのため、オリゴを凍結してしまうのが長期保存にはの最良です。オリゴを室温で保存する場合は、オリゴをTE緩衝液に再懸濁すると、乾燥オリゴ保存よりも安定します。
注:弊社では、オリゴのほとんどを乾燥状態で出荷していますが、出荷・納品までの時間が短いのでオリゴの安定性を損ないません。上述のように、乾燥オリゴは、37℃(98°F)で保存した場合でも、40週間以上安定です。(図1.C)
5. オリゴの安定性に対し、凍結融解の影響は大きくない
複数の研究者が、DNAオリゴを繰り返し凍結解凍することは珍しくありません。凍結融解の影響を確認するため、弊社では、再懸濁液としてヌクレアーゼフリー水か、IDTE緩衝液のいずれかを用いて、凍結融解サイクルを数回おこなった後、オリゴ安定性試験をおこないました(図2)。
弊社の実験では、凍結融解を30回繰り返してもオリゴの安定性つまり機能に有意な影響がないことがわかりました。このことは、実験を行ったヌクレアーゼフリー水、IDTEのいずれにもあてはまりました。
図2. 凍結融解サイクルを30回繰り返してもオリゴの安定性は維持されています
オリゴヌクレオチドプライマーおよびプローブを含む標準スケールのIDT PrimeTime® qPCR Assayを、IDTE緩衝液で40倍に希釈しました。その後、チューブの凍結(-20℃)と融解を30回繰り返しました。凍結融解サイクルを(A)0回、(B)30回おこなった時点で、マスターミックスとしてTaqMan®Gene Expression Master Mix(Thermo Fisher社)を用いて試験し、バリデート済みのユニバーサルなヒトcDNAのリファレンス標準曲線(0.005~50 ng)と比較しました。qPCRに用いたオリゴは、30回までの凍結融解サイクルに対して安定に機能し、Cq値に影響はありませんでした。(C)0.5 ngのcDNA濃度でのPrimeTime qPCR Assayをリファレンスダイに対して正規化して図示しました(Rn)。
修飾DNAオリゴ、RNAオリゴの場合:
6. 修飾オリゴの安定性は非修飾オリゴと同様。保存には同一のガイドラインを弊社は、カタログにある修飾のすべてについて長期間の保存における安定性を試験したわけではありませんが、ほとんどの修飾オリゴの保存特性は非修飾オリゴと同様だと考えています。修飾オリゴを長期保存する場合は凍結が最適であり、IDTE Bufferは凍結温度よりも高い温度で安定性を保つのに役立ちます。
紫外線、実験室の周囲光、オゾンに短時間暴露しても、蛍光色素修飾オリゴの機能には影響しないはずです。しかし、蛍光色素修飾オリゴを長期保存する場合は、保存状態、保存温度、保存時間にかかわらず暗所保存をお勧めします。蛍光色素の安定性に悪影響を及ぼさないようにするためです。
各修飾の安定性に関する詳細については、アプリケーションサポートスタッフ
(japan-cc@idtdna.com)までお問い合わせください。
7. RNAの保存にはより難しい
RNAの化学構造はそもそもDNAよりも不安定ですが、RNAの保存をさらに複雑にするのが、実験に際し、RNase(ヒトの唾液、汗、遊離した皮膚細胞・毛髪細胞に存在)が、DNaseよりもコンタミネーションしやすいことです。RNaseがわずかに混入しただけでRNAが分解されるおそれがあるため、RNAオリゴの安定性を維持するために、RNaseのコンタミネーションを避けることが不可欠です。
RNAの短期保存には、IDTE Bufferの使用をお勧めします。RNAオリゴを長期間(数か月~数年)保存する場合は、RNAを-80℃でエタノール沈殿物として保存する必要があります[1]。
上述した事実とデータは、オリゴの数年間の長期安定性について現在も実施している研究で判明・作成されたものです。さらなるご質問、オリゴの取扱いや実験手順に関するガイダンスについては、弊社の科学アプリケーションの専門家が対応いたします。japan-cc@idtdna.comまでお問い合わせください。
References
著者:Nolan Speicher, Scientific Writer, IDT.
翻訳:安井 孝彰
- Farrell RE (2009) Chapter 2: RNA Isolation Strategies. In: RNA Methodologies (4th Edition). Boston: Academic Press. p 45–80.
製品フォーカス
プライマー(Custom DNA Oligos)
60塩基まで最小スケールで合成出来るDNAオリゴヌクレオチド合成サービスです。IDTは品質に強いこだわりがあるため、すべての合成DNAに対して品質確認を行っております。
Ultramer
45 ~ 200 塩基まで合成出来る一本鎖DNAです。通常の1本鎖DNA合成よりもさらに純度が高いため、品質が要求されるアプリケーションにオススメです。
また、比較的長い1本鎖DNAを合成できるため、ゲノム編集にもよく使われています。
純度の高さはDNA合成時のカップリング効率に依存します。詳細は、リンク先にてご覧下さい。
RNA合成(Custom RNA Oligos)
IDTのRNA合成サービスです。IDTで合成したRNAでないと、結果がでなかったと感想を頂いたこともあります。RNAに品質を求める場合にぜひお試しください。