インターナルコントロールとしてGAPDHを推奨しない2つの理由

GAPDHは良い参照配列なのか?
どのようなインターナルコントロールをお使いですか?ハウスキーピング遺伝子がインターナルコントロールとしてよく用いられています。

しかし、それはベストの選択ではないかもしれません。その理由は、機能がよくわかっていないこと、そして偽遺伝子があることです。以下で例として用いているGAPDHのように、偽遺伝子の一部が発現することもあります。2013年7月5日
改訂/更新日 2016年8月22日
グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH;G3PDHと略されることもあります。EC 1.2.1.12)は、解糖に重要な役割を果たす約37 kDaの酵素です。

GAPDHは、遺伝子発現研究で用いられるハウスキーピング遺伝子のスタンダードとして人気があります。しかしながら、qPCRアッセイでこのmRNAをインターナルコントロールとして用いることの難しさに気づいておられない研究者は少なくありません。
  1. GAPDHは、解糖経路における活性があるほか、細胞内でそれ以外の役割も果たしています[1]。
    その結果、組織によってその発現量が異なります[2]。
    DNAやRNAへの結合性から、アルツハイマー病のような神経変性疾患における重要な役割まで、このタンパク質には多様な機能と活性があることが研究でわかっています[3]。
    つまり、GAPDHは細胞の種類によって発現量が異なるため、参照遺伝子として最適とは言えません。

  2. また、よく用いられるモデル生物のゲノムにはGAPDHの偽遺伝子がたくさん含まれています。
    ヒトには60個、マウスには285個、ラットには329個あります[4]。

    一部のGAPDH偽遺伝子には発現も見られます。こういった偽遺伝子には、活性のターゲットGAPDH転写物と同一の配列か、ほぼ同一の配列があるため、エキソン連結部をカバーするプライマーやプローブは、活性転写物のcDNAとともに偽遺伝子も検出してしまいます。

    DNaseで処理したサンプルでは、偽遺伝子が存在するゲノムDNAの一部を保持することも可能です。その結果やはり、標的外の偽遺伝子を検出してしまい、発現したGAPDHをターゲットとするアッセイのシグナルに少なくとも一部影響してしまいます。


複数のインターナルコントロールの使用

上述した各種の要因によって、実験結果の解釈が複雑になってしまうことがあり[5]、実験に用いる他のアッセイの相対的な定量結果も影響を受けます。

GAPDHは、そういう精密な調査に値する一般的な参照遺伝子として唯一のものというわけではありません。いくつかの細胞型や疾患状態によって発現量がばらつく可能性は多くの参照遺伝子にもあります。

しかし、インターナルコントロールを複数用いることによって、単一の参照遺伝子に起因するばらつきのために入り込む定量誤差を小さくすることができます。

その他の正規化オプション

別のアプローチとして、全細胞RNA量に対する正規化があります(モル/g 全RNA、濃度/g全RNA)[6,7]。

複数の参照遺伝子を用いるとRNA濃度に対する正規化を行うことによる恩恵を受けられます。なぜなら、発現量がばらつく参照遺伝子を特定して実験から除外することができるからです。

より包括的で詳細な正規化戦略・相対的定量戦略については、MIQEガイドライン[8]も参照してください。


References

原文:Is GAPDH a good reference sequence?
著者:Rami Zahr, MS, former NGS Product Manager, IDT.
翻訳:安井 孝彰

  1. Hara MR, Agrawal N, et al. (2005). S-nitrosylated GAPDH initiates apoptotic cell death by nuclear translocation following Siah1 binding. Nat Cell Biol, 7(7):665–674.

  2. Radonic A, Thulke S, et al. (2004) Guideline to reference gene selection for quantitative real-time PCR. Biochem Biophys Res Commun, 313(4):856–862.

  3. Butterfield DA, Hardas SS, and Lange MB, (2010) Oxidative modified glyceraldehyde-3-phos­phate dehydrogenase (GAPDH) and Alzheimer’s disease: Many pathways to neurodegeneration. J Alzheimers Dis, 20(2):369–393.

  4. Liu Y-J, Zheng D, et al. (2009) Comprehensive analysis of the pseudogenes of glycolytic enzymes in vertebrates: the anomalously high number of GAPDH pseudogenes highlights a recent burst of retrotrans-positional activity. BMC Genomics, 10:480.

  5. Kalyana-Sundaram S, Kumar-Sinha C, et al. (2012) Expressed pseudogenes in the transcriptional landscape of human cancers. Cell, 149(7):1622–1634.

  6. Bustin SA. (2000) Absolute quantification of mRNA using real-time reverse transcription poly­merase chain reaction assays. J Mol Endocrinol, 25:169–193.

  7. Bustin SA. (2000) Quantification of mRNA using real-time reverse transcription PCR (RT-PCR): trends and problems. J Mol Endocrinol, 29:23–39.

  8. Bustin SA, Benes V, et al. (2009) The MIQE guidelines: minimum information for publication of quantitative real-time PCR experiments. Clin Chem, 55(4):611–622.