[インタビュー] 和歌山県立医科大学 洪先生 非小細胞肺がんのEGFR変異検出について

洪先生はこれまで、高感度の非小細胞肺がんのEGFR (上皮成長因子受容; epidermal growth factor receptor) 変異の検出に取り組んでこられました。肺がんは現在、がんによる死亡数の第一位であり、今後も増えることが予想されています。
今回は、肺がんの診断法の開発とモニタリングに挑む洪先生にお話を伺いました。


EGFR変異陽性の患者さんには、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (EGFR-TKI)という分子標的薬が効果を示しますが、1年程度で耐性を生じ、再憎悪してしまいます。この耐性の約半数を占めるのが、EGFR T790M (rs121434569) 変異です。私達のグループは、EGFR-TKIを用いた非小細胞肺がんにおけるEGFR-T790M変異の高感度検出系( ≧0.001%)をデジタルPCRで確立しました※1



図1. 原発性肺癌を含む患者さんのEGFR T790M変異の検出
FFPEサンプル由来のゲノムDNAを用いたddPCRアッセイの2次元ヒストグラム (RainDance社)。各プロット図の上部に サンプルIDおよび入力DNA量を示しています。 プロット上に空の液滴の割合も記載しています。液滴の>98%が空であることが示されます。使ったプライマー及びプローブは下記の通りです。

表1. ドロップレットPCR(ddPCR)に用いたプライマー及びプローブ(IDT)

※ “+ “はLocked Nucleic Acids (LNA)を意味する。

さらに、EGFR-TKI治療の指標として重要な3つの変異(L858R、exon19 deletion、T790M)をデジタルPCRで一度に検出する方法も開発しました※2(図2)。

図2. EGFR変異のマルチプレックス解析
6ヘキサプレックスアッセイの2次元ヒストグラムを示す。Wild-type、Mutantsはそれぞれの変異を含むプラスミドで、プロット化された各液滴に存在している。


肺がんのリアルタイムでの確定診断に向けて
2016年にEGFR T790M変異を有する非小細胞肺がんに効果の認められるEGFR-TKIが承認され、進行肺がんを含む固形がんにおいて、多数の治療薬が存在する状況になっています。しかしながら、個々の患者さんに最適な治療を選択するためには、それらの選択肢から最適な治療を最適なタイミングで提供する事が重要です。つまり、治療標的の正確な検出だけでなく、治療経過中におけるリアルタイムでのモニタリングを可能にする必要があります。
一方で、肺がんを含むいくつかのがん種では、診断のための検体採取において、高度な侵襲を伴う事が、リアルタイムでの診断実現における大きな障害となっています。加えて、採取できる検体が微小であること、腫瘍の不均一性( tumor heterogeneity)が正確な診断の妨げになっています。
これらの課題の解決を目指し、現在私達のグループは末梢血を中心とした液性検体を用いた診断法(リキッドバイオプシー)に取り組み、血漿DNAや血中循環腫瘍細胞を用いた診断開発を行っています。

References
  1. Watanabe M, et al: Clin Cancer Res 2015; 21: 3552–60
  2. Watanabe M, et al: EBioMedicine 2017; 21: 86–93




洪 泰浩
(こう やすひろ)

略歴:
1996年りんくう総合医療センター市立泉佐野病院内科 研修医
1999年国立がんセンター研究所薬効試験部 リサーチレジデント
2002年Postdoctoral fellow, Hematology/Oncology Division, Vanderbilt University School of Medicine
2005年近畿中央胸部疾患センター内科 常勤医師
2007年静岡県立静岡がんセンター研究所
新規薬剤開発・評価研究部 部長(病院医師兼任)
2014年和歌山県立医科大学 内科学第三講座 講師
2017年和歌山県立医科大学 内科学第三講座 准教授